不動産業界を取り巻く未来は

 昨今、多くの評論家が日本の不動産業界が抱える問題点として人口減少と生産緑地の宅地化と人材不足及びIT化の遅れを上げています。
財務省の法人企業統計調査の結果によると、平成29年における不動産業界の市場規模は約43兆円です。これは、1位の自動車業界や2位の建築業界、3位の医療業界についで4番目に大きな市場規模となります。これほど大きな市場規模を持つ不動産業界が「不況」に見舞われたなら、日本経済そのものの根幹を揺るがしかねません。
さらに不動産業界は、「開発・建設」「販売」「賃貸」「管理」の4つの分野にわかれ、他の業界へも波及するすそ野の広い業界だといえます。まず、建設業者が建設した建物を賃貸不動産仲介業者やメーカーに販売します。次に、メーカーが付加価値をつけて販売し、賃貸不動産仲介業者が一般消費者に販売・賃貸を行います。ホテルや大型マンション、商業施設などをメンテナンスする管理業も不動産業界のひとつに分類されています。
ここ数年間、不動産業界の市場規模は拡大傾向にあり、東京都心部を中心に商業施設やタワーマンションの建設が盛んに行われています。
現在も都心部ではマンションの売り上げが好調で、新築のみならず中古マンションまで価格は上昇しています。しかしそれは大都市部での話で、地方の不動産業界はそれほどでもないようです。
不動産業界が抱える課題
不動産業界ですが、実は多くの課題を抱えています。その最大の問題が人口減少です。日本の総人口は2008年にピークを迎え、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2030年には1億1,900万人に減少すると予想されています。当然のことながら人口が減少すれば「世帯数」も減少して日本全体で必要とされる家屋数が少なくなります。現在ですら16%もの家屋が過剰だといわれています。
しかも都市部に人口が集中する一方で、地方の人口が減少する「人口の2極化」が進んでいます。今後益々地方は減少減が深刻な社会問題化するのではないかと思われます。そして地方でも地方の中心市と周辺町村との格差が広がり、限界町・村が消滅町・村になって行くのではないかといわれています。平成の大合併で行政の拠点を失った町村は殊に厳しいのではないでしょうか。
当然ながら少子高齢化や未婚化が進むと思われることから、全国の世帯数が大幅に減少するのではないでしょうか。それらの影響を受け、都市部を中心に空室や空き家が増加し、新築や中古物件の需要は低くなることが予想されます。
 大都市圏でも現在、税制面の優遇措置のある生産緑地の指定を受け、農業以外の利用が制限されている土地が2022年にその期限を迎えます。つまり、2022年以降は税制の優遇がなくなることから、多くの生産緑地が宅地に転用されることが予想されます。
そのため、土地の供給過剰による地価の下落が起こる確率が高いでしょう。
活況が続いている大都市圏のマンション業界ですが、この2022年問題をきっかけに大きな打撃を受けるのではないか、との懸念が広がっています。
 今後、不動産業界が持続的な発展を確保するために、これらの課題に対し、できる限り早い時期から対策を立て問題解決に取り組む必要があります。それでは具体的にどのような対策を立てる必要があるのでしょうか。
 解決策の1つとして他業種との連携が上げられます。現代は、目まぐるしく社会環境が変化しています。そのため、社会環境の変化に合わせて、消費者のニーズも変化し、同時に多様化しています。不動産業界が単独でサービスを提供するだけでなく、医療や福祉、運輸や通信などの他業種や行政組織との連携・協業を行いながら、トータルサービスを提供することが求められるでしょう。
たとえば、24時間の見守りサービスや医療・介護サービスを取り入れた総合型高齢者向け住宅の開発などが一例です。今後は、より幅広いニーズに対応できる体制を整える必要があるといえるでしょう。
 そして古い家屋を現代に蘇らせるリノベーションも不動産業界で取り組むべき新規開発分野ではないでしょうか。経年劣化により価値が低下した物件の間取りや内装を最初から作り直し、新たな価値を生み出す「リノベーション」に注目が集まっています。
ファミリー向けの物件を単身者用に刷新したり、古くなった事業用の倉庫を最新設備が整ったお洒落な商業施設に改修するなど、アイディア次第でさまざまなリノベーションが可能です。今後は、人口減少や少子高齢化といった日本が抱える課題の内容に沿った、幅広いリノベーションが求められるでしょう。その広がりは個々の家屋から地域社会全体のリノベーションを構想する必要があるかも知れません。そうすれば不動産業界だけの問題ではなく、行政や政府までも巻き込んだ日本のリノベーションを考察しなければならなくなるかもしれません。個々の不動産業者の範疇を超えた政策提言が不動産業界のためではなく、日本の発展のために不動産業界から為される日が来るかもしれません。
 不動産業界は生活に身近な業界であり、景気動向や社会環境の変化に影響を受けやすい業界といえます。不動産に対する幅広いニーズに応えて豊かな住環境を提供するためにも、不動産業界は開発、販売、賃貸、管理といった各業態それぞれの役割を果たすことが期待されます。

2022年08月01日