一般財団法人「国土計画協会」の所有者不明土地問題研究会の試算結果によると、日本全国の所有者不明土地は北海道本島の土地面積(約780万ヘクタール)に匹敵するという。登記簿上の土地所有者が不明というミステリーが全国で発生している原因は、相続などにより取得した土地の所有者移転登記が義務付けられてなかったことによります。
土地所有者が不明だと公共事業や再開発を進めようとしても、所有者を探す時間や費用はもちろん、手続きにコストもかかります。緊急を要する災害復興に向けた用地取得も難しくなります。あるいは土地を売却しようと思っても、所有権が移転されて本人が登記簿上の所有者でなければ土地売却はできません。そのため改めて土地の所有権の移転登記をしようとすると、相続人全員に連絡して了解をもらわなければなりません。
こうした不都合を解消するため、2021年2月、法整備を検討してきた法制審議会が、相続や住所を変更した際の登記を義務づける法改正を法務相に答申し、4月21日の国会で成立しました。改正された法律では親が亡くなって不動産を遺産相続した場合は、相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内に移転の登記を申請しなければなりません。ただ複数の相続人がいて遺産分割協議がなかなか整わなくて遺産分割協議が2年後にまとまった場合、その日から3年以内に登記を申請しないといけません。正当な理由がないのにも関わらず、この二つの申請を怠った時は、10万円以下の過料を求められます。
また新たに「相続人申告登記」(仮称)も創設されます。申請義務のある人が、相続が始まったことや自分が相続人であることを申し出れば、義務を履行したものとして認められるものです。遺産分割協議が終わっていないけど、先に申請しておきたい、というケースを想定したものです。
正当な理由がなくて申請していない場合は、5万円以下の過料を払わなければなりません。施行は周知期間を設け、3年後となる見通しです。
登記名義人の住所変更などは2年以内
所有権を持つ名義人の氏名や名称、住所に変更が生じた場合は、変更があった日から2年以内に申請しなければなりません。土地の所有者が転居を繰り返して所在が分からなくなることを防ぐのが狙いの一つです。この義務は5年以内に施行されます。
今回の法改正では、もう一つ大きな目玉があります。相続した土地を、法務大臣(窓口は、各地の法務局)に申請し、承認を得た上で国庫に帰属させる制度です。目的としては、土地を所有し続ける負担が大きく、手放したいと思ったときに、国有地にしてもらうものです。ただ、全ての申請を認めるわけではありません。以下のような制限に引っかかるものは、該当しません。
1,建物のある土地
2,担保権または使用、収益を目的とする権利が設定されている土地
3,通路やそのほかの人による使用が予定されている土地として政令で定める土地が含まれている
4,土壌汚染対策法第2条第1項に規定する、鉛やヒ素といった特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る)により汚染されている土地
5,境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地
他にも、まだいくつかの要件があります。
国庫に帰属させるには、承認を得て所有権を放棄して全て終わりになるわけではなく、10年分の管理費を支払わなくてはいけません。現段階では、法務省が公表したスクリーニング調査結果によると、要件を充足する土地は、土地を所有している世帯単位でみると約1%にとどまるようです。今後、実際に運用していく中で、対象が増えていくかもしれません。