所有者不明の土地

 所有者不明の土地は全国で410万haあるといわれています。九州の面積が367.5万haですから、九州よりも広い土地が所有者不明のまま放置されていることになれります。このまま放置すれば2040年には720万haになると推定されているそうです。
 なぜそうなったのでしょうか。それは日本は歴史的に「土地」を最も重要な資産として大事にしてきたからです。歴史的に他民族から侵略されることのなかった日本では、土地こそが最も安全な資産でした。江戸時代の終わりまで長く続いた封建制度では、家臣への領地安堵を見返りとして武士団を支配していました。明治になって封建制度が消滅しても、実質的に「地租改正」として土地の所有を証する「地租」が俸給の基礎とされました。だから1899年に明治32年に「不動産登記法」を制定するにあたって土地所有者に登記を義務付けるまでもなく、土地所有者は積極的に土地登記するものと考えていました。

 しかし現実には登記簿上の所有権が移転しても、書き換えられていない事態が起きるようになってきました。さらに戦後民法改正により長男が不動産を相続する「家督相続制度」が廃止になって以来、相続財産の分割を巡って遺産分割協議が難航するようになり「未分割相続」不動産が放置されるようになりました。それはすべての法定相続人が遺産分割協議書に署名捺印しない限り、登記簿の所有権者は変更できない規定に起因しています。従って不動産所有者が死亡したまま登記簿の書き換えが放置され、そのままの状態で数十年から百年近くも経っている不動産が「所有者不明の土地」になっているのです。
 今般不動産登記法の改正により「不動産の登記名義人が亡くなったときは、当該相続により不動産を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記等(相続又は遺贈による所有権移転登記)をしなければならない」とされ、2024年から実施されることになりました。これにより今後は相続が発生した場合に不動産が未登記のまま放置されることはなくなると思われますが、以前から放置されたままの不動産に関してこの改正法を適用するのは困難です。

 法務局が放置されている土地所有権者の特定するのは地方自治体などの事業実施の際に障害となる場合から、今般は民間企業で地方自治体などに届け出た事業遂行上支障の出るものにまで範囲が拡大されますが、それでもまだ不十分ではないでしょうか。
 地方自治体や民間企業が工事などを行う場合で、「収用法」や「買収」を実施するまでもない、地上権のみを利用するケースもありますが、その場合は「登記官が所有者不明土地の登記名義人や法定相続人を特定し、情報提供する制度」の適用外となるのか疑問の残るところです。
 法改正により戸籍の一元管理が法務省でなされるようになり法定相続人を探す手間が大幅に省けるようになりましたが、それでも遺産相続されないで未分割のまま放置されている不動産は全国に数万件もあるとされています。一日も早い登記簿上の所有権者と現実の所有権者が一致するようになることを望むしかありません。まだまだ相続に関する手続きなどを国民が余り知らないのにも問題があります。たとえば親族が死亡後の「相続放棄」の期間すら知らない人が大半ではないでしょうか。不動産登記法が改正されて不動産登記が義務付けられたことも知らない国民が多いのではないでしょうか。

2021年11月27日