『週刊東洋経済』10月11日(月)発売号で「実家のしまい方」を特集していました。「実家のしまい方」とは聞きなれない言葉ですが、田舎で暮らしていた父母が亡くなり、無人となった「実家」をどう始末着けるのかという特集です。
5年に1度行われる総務省の「住宅・土地統計調査」では、2018年の空家は849万戸に達して、30年前の1998年から倍以上も増えました。空家数を総住宅数で割った空家率は13.6%に達して、およそ7戸に1戸が空家になっている計算になります。
そして、この趨勢で行くとするなら2038年には3戸に1戸が空家となり、残された子供たちにとって「実家のしまい方」が社会問題化するのではないかと懸念されています。
ただし「空家=居住者のない住宅」のすべてが問題なわけではありません。問題なのは空家のうち賃貸用や売却用、別荘などの二次的住宅を除く「その他の住宅」です。つまり利用されない「その他の住宅」が全体の41.1%を占めることになり、「入院などのため長期にわたって不在の住宅」「建て替えのために取り壊す住宅」「区分の判断などが困難な住宅」などがこれにあたります。空家の種類別では共同住宅が56%で、一戸建てが37%になっています。さらに所有者の年代別で見ますと、60代以上が78%を占めています。つまり都市ではマンションやアパート、団地で、郊外では戸建て住宅などで、高齢者が空き家の所有者となっていることになります。
そうした「実家の空家化」への危機感から、地方の市町村でも空家条例を次々と制定しています。また全国各地で空家バンクも設立されて、空家を売りたい人・貸したい人と、空家を買いたい人・貸したい人を仲介する試みも広がりつつあります。
しかし残念ながら、これまで空家の利用率がどんどん改善されてきたとは言い難い状況にあります。国による法制度の整備などが進んだために空家への関心は高まったようですが、まだまだ空家に対する取り組みが改善されてないのが現状のようです。
当然ながら家は維持するにも、処分するにもコストがかかります。水道や電気は引いているだけで基本料がかかりますし、家屋に掛ける火災保険料、さらには庭木の剪定費や毎年かかる固定資産税も掛かってきます。分譲マンションでは月々の修繕積立金なども必要です。そしていざ片付けようとしても、子が自分の持ち家から実家に通えば、交通費もばかになりません。親が亡くなった後の遺品整理で、家屋内に物が想像以上に溢れている現実に直面し、整理業者などのプロに依頼するケースも多く、その場合の費用は数万円から数十万円も掛かることがあります。
実家を処分するなら、売るか、貸すか、の二者択一になります。売らずに活用するために必要なリフォームをして、自分で住むか店舗などに変える選択肢もあります。地方では古民家カフェなどに改装したり、コロナ後を見据えて民泊などを開業することも考えられるでしょう。現実的に最も多い「そのまま維持」を別にすれば、やはり望ましいのは「売却」ということになるでしょう。ただし親が住んでいたような古い実家を売るのは簡単ではありません。マンションの住み替えなどを別にすれば、多くの人は買う経験はあっても、売る経験は少ないからです。
一戸建ての場合なら古い家を壊して更地にして売るか、そのままの状態で売るかは判断の難しいところです。売る側は「買い手が土地のみか戸建て付きか、選べるように販売したほうが売却できる確率は高い」と思われますが、解体費用も100万円から数百万円もかかり、地方では売却予定代金がそれに満たない場合もあります。「実家のしまい方」で地方のハードルはかなり高いといわざるを得ません。近年では買い取り再販なども増えたものの、まだまだ郊外では中古物件の取引は少ないようです。売買価格が安い分、仲介手数料も安くなり、不動産業者にとってウマミは少ないのが実情です。ただ複数の業者に相見積もりで査定を出してもらったり、自分でもネットなどで付近の不動産情報などを調べたりして相場感を知っておくに越したことはありません。
国も新築・持ち家に力を入れてきましたが、今後は住まいを畳むことまで視野に入れざるを得なくなってきます。日本ではすでに住宅総数(約6200万世帯)が総世帯数(約5400万世帯)を上回っています(2018年、国土交通省調べ)。単身世帯の増加によって、人口減でも世帯数は40万~50万のペースで増えていますが、同時に毎年80万~90万戸の新築住宅が着工されています。新築家屋に関しては住宅ローン減税をはじめ、政策面での支援も相変わらず手厚いが、今後は中古住宅の流通や利活用を増やすと同時に、空屋の除却などを進める政策を一段と進めていく必要があります。