仮登記の「時効」は?

 不動産業に携わっていますと、時々抵当権や所有権移転仮登記が設定してある物件売買に関する相談を受けることがあります。法律の専門的な相談は弁護士にお任せするようにアドバイスしますが、抵当権はまだしも、仮登記がいかなるものかご理解していない相談者が多いので、簡単にご説明しようと思います。
 まず仮登記にはどんなものがあるか確認しておきましょう。仮登記には次の2種類があります。(ここでは、所有権に関するものを紹介しますが、所有権以外の権利の仮登記もあります。)

 1つ目は当事者間に権利変動が既に生じているのに、登記申請に必要な手続き上の条件が完備していない場合(たとえば、BがAから土地を買い受ける契約を締結し、実際に所有権も移転しているのに、Aがその土地を取得した際にもらったはずの登記済権利証(登記識別情報)を紛失しており、AB間の移転登記申請の際に添付できない場合等)にする仮登記です。

 2つ目は、当事者間にいまだに権利変動が生じていない段階のもので、(1)将来生じる可能性がある権利変動について請求権を保全する場合(たとえば、AがBに対する借金返済を確実なものにする(債務を担保する)ため、返済できないときに金銭の代わりにその土地を提供するという予約(代物弁済予約)をする場合等)にする仮登記や、(2)一定の条件を満たせば権利変動をする予定なのに、いまだにその条件が満たされていない場合(たとえば、AからBへの土地の売買において、Bが売買代金を完済することを所有権移転の条件にしているが、未だにBが代金を完済していない場合等)にする仮登記です。

 登記の目的は、1つ目の例では「所有権移転仮登記」、2つ目のうち、(1)の例では「所有権移転請求権仮登記」、(2)の例では「条件付所有権移転仮登記」となります。

 以上の仮登記に共通することは、将来生じる本登記(上の例でいえば、AからBへの「所有権移転」登記)の順位を確保しておくという効力があることです。つまり、これらの仮登記をしておくと、この登記が本登記になるまでの間に、その物件についてされた第三者の登記を、(その本登記で生じる権利と抵触する範囲内で)否定できるのです。

 たとえば、Bへの仮登記後に、CがAに融資してその土地を担保として抵当権の設定登記を受けたとしても、Bの順位が仮登記によって保全されている以上、Bの所有権移転の本登記がされてしまえば、Cへの抵当権設定登記は効力が否定されてしまいます。

同じように、Bへの仮登記後に、AからXに所有権移転登記がされた場合にも、Bが所有権移転(本)登記をしてしまえば、Bの本登記がXへの所有権移転登記に優先し、Xへの所有権移転は否定されてしまいます。

 しかし「所有権移転請求権仮登記」という仮登記そのもの自体には、消滅時効という概念はありませんが、予約完結権という権利は債権ですので、これを行使することができるとき(一般的には契約締結時)から10年を経過すれば消滅時効にかかることになります。もちろん「時効」の権利を有効にするためには「時効」の援用が必要です。「時効の援用」のためには「時効を援用する」旨を記した内容証明付き郵便を出す必要があります。詳しくは弁護士にご相談して下さい。

2020年03月29日