所有権移転登記の義務化。


 かつてこのブログで「登記簿謄本に記載されている「所有者」が生存していない場合」の不具合を指摘したことがあります。なぜか相続などで土地や家屋を取得しても登記簿に記載することが義務付けられていません。よって利用価値の低い土地や老朽家屋などを取得して固定資産税の支払い義務から免れたいとの思惑から所有権を移転しないケースが多くみらているようです。
 しかしそれでは登記簿上に現実の所有者がいないという不都合が生じていることから、平成30年11月15日に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の一部が施行されて、相続登記などがされていない土地や家屋について登記を促す特例が設けられました。さらに一定の手続きを経て、登記簿上に記載されている所有者が現実には存在していない場合などでも、土地や家屋を第三者が有効利用できる制度が設けられました。
 上記の措置法は老朽マンションなどを相続した者が「管理費」や「補修費」が嵩むことから所有権移転しないで空室のまま放置するケースが多発することへの対抗策として制定されたともいわれています。現在はマンション解体などで全世帯の同意を取り付ける必要はなく全体の4/5に緩和されていますが、それでも登記簿上の所有権者の実在が不明などもあって4/5の賛同を得ることが困難な状況に変わりありませんでした。
 上記に掲げた法務省及び国土交通省が所管する「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」は2018年11月より一部施行され、2019年6月に全面施行され、それにより行政が強制執行できるようになりました。
 またこの特別措置法では名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地についても、法定相続人等を探索した上で登記官の職権により長期間相続登記未了の旨等を登記に付記し、法定相続人等に登記手続を直接促すなどの特例が設けられました。
 ただマンションなどの区分所有不動産の登記に関して、相続した者に幾許かの経済的な利があるか、もしくは損失が負担とならない場合でなければ「相続放棄」が続出するケースも想定されます。「負の資産」と化した老朽マンションを敢えて相続する者はいないと思われるからです。

 上述した通り、2018年11月15日から相続登記が放置される可能性のある土地に対応するために、一定の土地について相続登記の登録免許税の免税措置も開始されました。そして2019年5月17日には、所有者に関する情報が正しく記載されていない「変則型登記」を減らすための法律が可決しました。
 所有者不在による土地が利用できないことによる機会損失や、相続人等の所有者同意を取り付けるのにかかるコスト、固定資産税の滞納などによる経済的損失は国土計画協会の所有者不明土地問題研究会調査によると、2017~40年までの累計で少なくとも約6兆円にのぼると推計されています。日本全国の不動産登記の約20%が所有者不明の不動産といわれる現状を解決するためにも、所有者不明土地の発生抑制・解消に向けて当局が改正法に則って早急に取り組むことが望まれます。

2020年02月29日