「敷金」が制定されました。

 年度変わりを迎えて、転勤や進学などで賃貸契約に遭遇する機会の多い季節になりました。新居へ移転するに際して契約する「賃貸契約」は必ずしも楽しいものではなく、何かにつけて不動産業者の評判を悪くしているのが「敷金」を巡るトラブルです。
 そこで国は120年ぶりに民法改正を行ない、2020年4月1日から「新民法」が施行されることになりました。今回の民法改正では200近くの項目が見直されていますが、その主な改正点は「契約や金銭の支払いに関するルールを定めた民法の規定(債権法)を見直す改正法案」です。その中でも特に不動産業者と一般消費者に大きな影響があるのが「敷金」に関する改正です。
 それはこれまで「敷金」には法的な根拠がなく、慣行として行われていたた問題が多く、「敷金」についてルールを明確にするものです。

 まず「敷金」とはなにかを定義しました。「敷金」とは借主が家賃等を支払えなくなったときのために大家が入居時に預かる保証金のようなものです。その金額はアパートやマンションにより決められており、会社などが借りる場合などだと家賃の半年から1年分くらいのケースもありますが、概ね1ヶ月分〜3ヶ月分くらいが相場とされています。ただし現行の「敷金」は不動産業界の慣習にすぎず、法律で定められているものではありません。そのため「敷金」を巡るトラブルは多く、法的な指針が求められていました。
 今回の法改正で敷金の定義が明確化されました。2020年4月1日以降は名称に関係なく賃料の担保目的ならば「敷金」として定義されることになります。まず賃貸契約を締結する際に「敷金」は何を目的として徴収するのかを明確化しています。
 同時に「敷金」の返還時期についても明確化しておく必要があり、返還時期は「賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき」と定められました。また「敷金」の返還金額の範囲についても明文化されました。 
 法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料」よりますと、敷金の返還金額は「払った敷金から未払い債務額を引いた金額」とされています。未払い債務額とは損害賠償、未払い賃料、原状回復費用などがそれにあたります。基本として毎月の賃料を払っていて、借主の責に帰すべき原状回復負担分がないとすれば「敷金」は原則として全額返還されます。敷金が減額される場合とは通常損耗(賃借物 の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年劣化以外の、借主の責に帰すべきとされる損害を回復する場合だけです。具体的には以下に示す通り、通常の賃貸物件使用状況である限り、借主は原状回復費用を負担しなくてよいことになります。
<経年劣化による損耗とは次に掲げるものなど>
 ・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
 ・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
 ・地震で破損したガラス ・鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
<借主の責に帰すべき経年劣化に当たらないもの>
 ・引っ越し作業で生じたひっかきキズ
 ・タバコのヤニ・臭い ・飼育ペットによる柱等のキズ・臭い
 ・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備等の毀損、等

 つまり「借りた当時に戻すのが原状回復」ではないということになります。経年劣化による「減価」は原状回復の対象にならないと明文化したことが今回の法改正の大きな点です。
 借主の負担については、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させる考え方を採用しています。(このことを減価償却といいます) 例えばクロスなどはどんどん時間が経てば経年劣化します。賃貸契約解除し退去時にクロス等の新品への張り替え費用を借主に全額負担させようとする不動産業者がいますが「退去時のクロスの価値」だけを払えば良いことになります。
ちなみに新築で入居した借主は6年経過でクロスの価値は1円となります。ですから前入居者が新築から3年住んでいて、その直後に入居して3年経過すればクロスの価値は1円になります。つまり六年経過したクロスの「張替費用」は一切請求されないことになります。クロスや畳と同様に、問題となっているのがハウスクリーニング代の請求ですが、これも経年劣化以上に借主の責に帰すべき棄損があると明らかでない限り、ハウスクリーニング代を敷金から差し引かれることはありません。
 ただし、今回の法改正は2020年4月からの施行となります。そのため、現在すでに契約している場合は改正前の民法が適用となります。つまり、現状入居している方や4月前に入居する方は今回の改正が適用されません。
 ただ改正法が適用されない賃貸契約者でも、国土交通省が出している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を知っておくことで上記のルール改正と同様の扱いを受けられる可能性があります。
 ちなみに「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは国土交通省が退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のために、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をまとめたものです。
今回の民法の改正は国交省が作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に則ったものとなっています。
現在すでに賃貸契約を締結されている方は現在の契約が有効なため、契約内容に沿った扱いが原則ですが、法改正がなされることからガイドラインを参考にして話し合う必要があります。
参考までに下に国交省の「ガイドライン」を記しておきます。
 賃貸契約に関するトラブルを防ぐために、今後「法改正」が望まれるのは賃貸契約に際して一年ごとや二年ごとの頻繁な「契約更新」条項や、不動産所有者から賃貸契約した業者が又貸しする「再賃貸契約」に関して指針となるガイドラインなども示して頂く必要があるのではないでしょうか。
<国交省>
 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)は以下のリンクからダウンロードできます。ガイドラインは全173ページ(1.93MB)になります。各章単位でもダウンロードが可能です。構成は以下の目次のとおりです。ガイドラインに掲載されている一部の様式については、MicroSoft Word形式でも提供(目次欄に掲載)しておりますので、是非ご活用ください。
  ◆ ガイドライン全文(全173ページ) [PDF形式:1.93MB]
  ◆ 第1章 原状回復にかかるガイドライン   [PDF形式:989KB]
  ◆ 第2章 トラブルの迅速な解決にかかる制度 [PDF形式:397KB]

  ◆ Q&A    [PDF形式:438KB]

  ◆ 第3章 原状回復にかかる判例の動向    [PDF形式:717KB]

2020年02月01日