「棄国」よりも「地方への移住」の勧め。

 ジムロジァーズ氏はいわずと知れた投資企業ロジャーズ・ホールディングスの会長です、ジムロジァーズ氏本人はウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界三大投資家」と称されている投資家です。いわばウォールストリートを代表する米国の「ハゲ鷹」の一人に数えられています。
 その彼が先月来日して様々なマスメディアに登場したことは御存知でしょうが、彼がマスメディアを通して常に言っていたのは「日本は投資対象として魅力に欠ける」ということでした。彼は持論のように「経済成長率の鈍化した日本で消費増税するのは狂気の沙汰だ」と現政権を批判していました。グローバリストの彼がグローバル化を推進する現政権を批判するのは驚きでした。そして彼の肝となる主張は「移民」の勧めでした。彼が米国から居を移しているシンガポールに日本の高齢者も移住してはどうかと呼び掛けていました。
 実際に年金世代が日本から脱出してタイやフィリピンなどに移住する人がかなりの数に上っているのも事実のようです。しかし移住先で貧困化してホームレスになっている高齢者も珍しくないようです。移住には用意周到な準備と的確な現地社会制度の調査が必要なのは言うまでもありません。
 だがたとえ移住が成功したとしても、年金世代の高齢者が「国を捨てて」移住するのもどうかという思いがしないでもありません。ジムロジャース氏のようなグローバル世界で生きている投資家にとって、何処に棲もうが問題ない、ということなのでしょうが、多くの日本国民は「移住」に対して少なからず抵抗を覚えるのではないでしょうか。
 かつて国が国民を捨てる「棄民」という言葉がありました。しかし「移住」の勧めは、ある意味で「棄国」ということになりはしないでしようか。高齢者といえども国民が「国を捨てる」とは穏やかではありません。
 ジムロジァーズ氏は「暮らしのコスト」とりわけ家賃と食費を例にとって、少ない年金受給者でも東南アジアに移住すれば豊かな暮らしが送れる、と「移住の勧め」をしています。が、彼が東京の家賃や食費を「ヒキアイ」に出して比較するのは地方に在住者にとっては違和感満載です。地方では選り好みさえしなければ中古住宅の家賃は格安ですし、食費も自給自足を目指せば必ずしも不可能ではありません。
 ですから大都会から地方への移住は「移住」よりもお得だといいたいのです。そして国民の大都会から地方への移動を支援するシステムを、地方自治体は不動産業者を巻き込んで構築する必要があるのではないでしょうか。
 地方には耕作放棄された広大な田畑や、多くの空き家が残されています。それなりのオリエンテーションを行えば決して地方枝の移住のハードルは高くありません。何よりも同じ言語を使う日本国民ですから理解し合うのに不便はありません。地方を生かすためにも、「棄国」ではなく、地方への移住を不動産業界も一考すべきではないでしょうか。

2019年08月03日