マンションは廃墟になる。

マンションのみならず、すべて形あるものは「空」に帰す、とは般若心経に説かれています。マンションであろうと一戸建てであろうと「形」あるものは永遠ではないのは自然の摂理です。いつかは老朽化して手を入れざるを得なくなります。
 しかし住宅評論家の榊淳司氏は「すべてのマンションは廃墟になる」との著書を著して、ことさらマンションに限定して警告しているのはなぜでしょうか。榊氏には「絶対にタワーマンションを買ってはならない」との著述もあります。それほどまでに榊氏が「コンクリート集合住宅」を忌み嫌う理由は何でしょうか。
 まず榊氏がマンションは必ず廃墟になる、と論述している根拠はマンションを構築している構造体の「鉄筋コンクリート」あるいは「鉄骨コンクリート」という建築素材を論拠に上げています。つまり鉄は必ず錆びて永遠に家屋を支える素材ではない、というのようです。材木を組み合わせた戸建ての日本古民家が百年の星霜を超えて建ち続けるのとは根本的に異なる、というのです。
 マンションの耐用年数が50年だとすると、新築マンションは一年毎に2%減価することになります。そして建築後50年を経過時点で耐用年数が尽きて「取り壊し」て「建て替える」ということになります。マンションの問題はまさに「取り壊し」と「建て替え」にあるようです。

 従来は入居者全員の同意が必要でしたが、現在では幸運にも居住者の4/5以上の賛成を得て「解体撤去」が出来るようになりました。しかし幸運にも「解体撤去」が決まったとしても、一戸当たり平均500万円の「取り壊し費用負担」が重くのしかかってきます。
 しかも取り壊した後に残る「資産」はマンション敷地の土地の「区分所有部分」でしかありません。これまで暮らしてきたマンションで専有していた面積には遠く及ばない僅かな「土地」が「資産」として残っているだけです。若いころにマンションを購入したとしても、建て替えが必要になる頃には居住者はリタイアした高齢になっています。
 建替え積立金をマンション管理組合で積み立てていればまだしも、管理組合の積立金が修繕費にすら足らないマンションがほとんどで、築後30年が目途とされる大規模修繕すらままならないマンションが殆どです。つまり減価を終えたマンションは次の新築を目指して老朽化したマンションの解体撤去を行い、次にマンションを新築しなければ「持ち家」は減価とともに消え去ることになります。
 更に悲劇的なのがかつてのように容積率緩和で建増しされる部屋数を売却して従来からの入居者が低廉な価格で新築マンションに帰還できる、という「夢のような話」も現在のマンションは緩和された容積率いっぱいに建てられているため、将来にそうした「夢」を託すことも出来ない現実が追い打ちを掛けます。
だから将来老朽化したマンションは見捨てられ廃墟になる、というのが榊氏の結論のようです。さて、皆様はいかがお考えでしょうか。

2019年06月12日