「家を買うな」と主張する評論家たち

 テレビなとで活躍している人気経済評論家の上念司氏は「家とマンションは買うな」との持論を展開しているようです。同じく経済評論家の森永卓郎氏も「この先不動産と株価が下落する」と不動産業者にとって不吉な予言をしています。
 その反面、賃貸住宅の高齢者の多くが行き場を失って生活困窮者に転落している厳しい現実もあるようです。ことに未婚率が高くなり独身のまま高齢化した場合が困難な状況に追い込まれるようです。それは賃貸住宅に居住している人がそのまま定年を迎えると収入減となり、現役時代から暮らしている賃貸住宅に入居し続けるのが困難になる反面、新たに賃貸住宅に入居するには「保証人」や「保証制度」を利用するにしても、なかなか「保証人」を見つけづらくなり、「保証制度」を利用するにしても審査基準が厳しくなる現実がありようです。また貸す方からしても独居老人に貸すのを嫌がる傾向が強いのも事実です。

 そうした状況を踏まえて、2017年10月に国交省が「住宅セーフティネット法」を改正して、家賃補助や改修工事への補助と引き換えに、所得の少ない人や高齢者などの「住宅確保要配慮者」の入居を断らない、を優先的に入居させる賃貸住宅を「セーフティーネット住宅」として登録させる制度を創設しました。目標は「2020年度に15万5000戸」だそうですが、それに対して制度開始から半年経った時点で登録された賃貸住宅は600戸余りと目標達成率0.4%と厳しい状況です。ことに東京都では登録戸数ゼロということで、民間賃貸住宅市場が貸し手市場の場合はなかなか難しいようです。
 国交省は将来的には「セーフティーネット住宅50万戸」を見込んでいるようですが、抜本的な改善策を立てない限り達成は困難なようです。今後生涯未婚率が上昇する分も見込めば、東京都だけで70万戸近い高齢者借家制多数が増えると予測され、高齢者の自宅難民が続出すると思われています。

 投資の観点から上念氏や森永氏は「持ち家は割に合わない」と主張しているのですが、一般の人にとって家の購入は投資目的ではなく「生活の場の確保」をするためのものです。ことに高齢者が「生活の場」を失えば現役世代よりも所得が低いため、ホームレス生活に転落する可能性が高いと思われます。そのためUR(独立行政法人都市再生機構)では民間と異なり国籍不問や職業不問と「入居基準」を低くしています。その上保証人、礼金、仲介手数料、更新料などの「4なし」を売り物とし入居審査も比較的緩くしているようです。しかしそうした「入居基準」の引き下げはURそのものの治安や住環境の悪化につながるとともに、そもそもURの団地は家族向けのものが多く、一戸当たりの専有床面積も広く家賃も広く設定されています。従って、独居老人にとってはUR入居は割高感が強いようです。

 つまり定年を過ぎても賃貸住宅に住めるのは定年後も十分な所得のある高齢者に限られる、ということです。「家を買うな」と主張する経済評論家たちは定年後も所得の下がる心配のない売れっ子評論家か、「家」を投資としてみる評論家の「極論」でしかない、というしかありません。平均的な人生では庭付き一戸建てを手に入れることが「上がり」とする「住宅すごろく」はいつの時代でも変わりないようです。

2019年05月08日