「古民家」考

 テレビなどで取り上げられる「古民家」が地方にゴロゴロ転がっているわけではありません。風格のある年代物の古民家は素晴らしいが、殆どの「中古住宅」はただ単に古い家屋に過ぎないというのが現実です。つまり築後50年経とうが「古民家」でない「中古住宅」は古いだけで格別に魅力があるわけではないのです。
 長らく仲介 物 件として預かっていた「中古住宅」にやっと買い手が付いた。それも売値を下げに下げて、殆どタダ同然だが、そのことを電話で告げると依頼者は売れたことで一安心していました。  なぜ「一安心」なのでしょうか。それは単に解体費用を掛けないで済んだからです。大きな母屋と農機具倉庫。それに離れまで建っているから解体業者に頼めば数百万円かかる。その費用を考えるだけで頭痛の種だったそうです。
 「中古住宅」は兄の住居だったという。その兄夫婦は子宝に恵まれず、夫婦ともに病死した。相続した弟も遠隔地の島根県に暮らし、胆石を患って今年一月には手術して胆石を取り出し、長く病床に臥していたそうだ。

 中古住宅は兄夫婦が建ててから50年も経過しているが、古民家というほど巨大な梁や三尺の大黒柱などを用いた家屋ではありません。もちろん囲炉裏を焚いた家屋でないため、黒煤の風格もない。プレハブでない、というだけの平凡な中古住宅。

 買い手は敷地の広さに目を付けたようだ。土建業を営むという買い手は広い庭に重機などを置くという。家屋は盗まれ易い発電機や転圧器などを収納するという。つまり「倉庫」代わりに使うという。

 だが、それで「中古住宅」が「廃屋」にならずに済んだ。人が棲まなくなり「廃屋」になれば10年と経たずして家屋は朽ち果てる。地域に迷惑をかける前に大枚をはたいて解体しなければならなかった。そうした運命を辿らないで済んだことに弟は「良かった」と、買い手が付いたことに安堵した。それが地方都市の周辺部、田舎の日常風景なのです。

2019年04月13日